幼馴染と約10年ぶりに再会して涙した話




先日、約10年ぶりに幼馴染と偶然出会った。
(この人物を仮にSとしておく)

Sとは家が近く同い年で、小学校と中学校が同じだった。

幼いころから仲が良く、頻繁に一緒に遊んでいたのだが、中学を卒業してからは特に喧嘩をしたという訳でもないのになんとなく疎遠になっていた。

思えば子供の頃は、家が近いとか学校の席が近いとか、そういう理由で仲良くなることができた。
趣味や性格が違っても一緒に遊ぶことができた。

今とは違って携帯電話はごく一部の人しか持っていないものだったからインターネット上の友達なんてものはいないし、何よりも物理的に距離が近い、何度も顔を合わせるということが仲良くなる条件だったのだろう。
地元の友達とはそういうものだ。


だが、逆に言えば家が近い以外の共通点がない。
もちろんある場合もあるが、その確率は低い。
趣味や性格が合うことも少ないし、高校に行けば学力別に分断される。


僕たちはいつまでも子供ではいられない。
家の近さより大事なものが増えていく。

そして実際毎週のように遊んでいた僕とSも、高校に入ってからは会うことがなくなった。


ケータイの連絡先さえ知らなかった。
家が分かってるんだからその気になればいつだって会えると思っていたのだ。

しかし結局その気になることもないまま10年近くが経っていた。


そんなある日のこと。
いつも通りに仕事をし、帰りの電車に乗ろうとしたところ、タッチの差でお目当ての電車を逃してしまった。

ついてないなと思いつつ、無表情に次の電車を待った。
10分程で電車は到着した。



その電車に乗った瞬間にある人物と目が合った。
それがSである。


10年近く会っていない間に髭が濃くなり、少々ふっくらしていたが、間違いない、Sであった。


或いは、と僕は思う。
或いはもっと遠くでSの姿を見つけていたとしたら、僕は声を掛けただろうか。



10年間一言も交わしていないのだ。
話しかけたとしても素っ気無い対応をされるかもしれないし、Sにとっても迷惑かもしれない。

そんな事を冷静に考えたとしたら、気付かないフリをするというのも十分選択肢に入りうるだろう。


だが実際の僕たちはそんな事を冷静に考えている状況ではなかった。
もはや初対面の人であっても素通りなどできないレベルでバッチリと目が合ってしまったのだ。
ここで無視する方がよほど不自然だろうというくらいに。


うだうだ迷っている暇もなく僕たちの再開は幕を開けた。

S・・・?
「ナオキか?」
「やっぱりそうや!久しぶり!」
「ホンマやな!元気してた?」

Sの見た目は少し変わっていたが、笑い方や優しい目元はちっとも変っていなくて、僕は一気に子供の頃に戻ったような感覚になった。
なんと言うか、安心した。



電車の中でしばらく話しているうちにわかったことは、僕もSもまだ地元に残っているということだ。


それならば、と再会の興奮で勢いに乗った僕たちは、地元のお店で飲みながら近況報告をしようということになった。


お店に入ってビールを頼み、取り敢えず乾杯をした。

お互いの記憶が、思い出が、中学の頃で止まっていたからだろうか、ビールジョッキを突き合わせる僕たちがなんとなく滑稽な気がして、照れ隠しに笑った。


ジョッキが半分くらい空いたところで僕たちは近況報告をしあった。


Sは会社員をしているとのことだった。
つまらない仕事だと卑下していたが、企業の利益だけでなく顧客の利益に関しても様々な思いを抱えながら頑張っているのだということはわかった。
素直にすごいと思ったし、友人として誇らしく思った。



それにひきかえ僕はどうだ。
誇れることなど何もしていない。
自分のことで精一杯で、人を思いやる余裕など一切なかった。


S相手に見栄を張っても仕方がないので、僕は中学を卒業してからの暮らしをありのままに語った。

高校受験、大学受験はそれなりにうまくいったこと。
大学生活は自分に合わなかったこと。
19歳の時に鬱病になったこと。
それがきっかけで大学を退学したこと。
今は非常勤の塾講師とネットニュースのライターでなんとか生活していること。


聞いていて愉快な話ではなかったと思うが、Sは真剣な眼差しで聞いてくれた。

一通り話が終わった後、Sは静かに口を開いた。

「かっこいいよ」と言った。

「合わない大学で漫然と生活してるよりずっといい。これからもっと自分の為に時間を使ったらええやん」と。


嬉しかった。
たとえお世辞だとしても嬉しかった。
何が変わったという訳ではないけど、自信を持っていいと言われた気がした。

油断すると、泣きそうだった。


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そんな僕の様子を察してか、Sは明るく話し始めた。

「あの里山の公園覚えてる?」
「ああ、秘密基地作ってた。笑」
「そうそれ。笑 あそこ今入れへんらしいよ。」
「そうなん!?」

それからは昔の思い出話を次々にした。

カブトムシ取りに行ったこと。
川で鯉を捕まえていたらナマズを見つけたこと。
そのナマズを捕まえようとしたら網がお釈迦になったこと。
農家の方が使う台車を壊してしまったこと。
公園の砂場を掘ると温泉が出ると信じ込んでいたこと。
廃材を集めて椅子を作ったこと。
小屋も作ろうとしたけど材木が足りなかったこと。

「結構ムチャしてたよな」と笑いあった。


Sは体格が良く、力仕事が得意だった。
僕は手先が器用で、色々な道具を作った。
お互いに足りないところを補っていた。


話し始めると止まらなかった。
記憶が記憶を呼び起こし、連鎖的に思い出が溢れ出した。
そしてそのどれもが鮮明に思い出されることに自分でも驚いた


もう二度と経験できない思い出に対する寂寞と、今この瞬間の楽しさが相まって、なんだか訳が分からない感情になった。


しばらくの間思い切り笑いあった後、Sは静かに言った。

「お前は俺のヒーローやった」
「俺の見たことない世界を見せてくれた」と。


「それは今でも変わらん」と、目を逸らして言った。

今の自分には何の力も無い、ヒーローにはなれない。そう言いかけて、やめた。
口に出すと、何かを失う気がした。
そう言ってくれた嬉しさと、現実とのギャップへの落胆、不甲斐なさ、そして微かな希望、それらがルーレットを回すように次々と心に浮かび、更に酔いが回ってきたこともあって、いよいよ判別不能の感情になった。


何を言っても本心とは違う言葉が出てくる気がして、ただ黙って涙を流した。


どれくらいそうしていただろうか。

そんな長時間ではなかったと思うが、それでも二人で黙って向かい合っているには長すぎたことだろう。

Sは僕が落ち着くまで待っていてくれた。

「俺、頑張るよ」

ようやくそれだけ絞り出した。
格式張った決意表明はいらないと思った。

Sもわかってくれた。そう、とだけ答えた。

お会計を済まし、店を出て、それぞれの家路についた。


一人になってからSの事を考えた。
家が近い以外に特に共通点は無い。
趣味も性格も似てない。
だが僕たちは経験を共有した。
僕たちしか知らないことが沢山ある。
それを絆と呼ぶかはわからないけれど、記憶が、経験が、思い出が、僕たちを結び付けていたのだろう。

こういうつながりもあるんだなと思った。


そしてこれからの事を考えた。
僕にしかできないことをしなくてはいけない。
僕しか知らない経験。僕しか知らない感情。
それを大事にして生きていかなくては、と思った。


そして過去に思いを馳せる。

外で走り回る子供たち。
突然の天気雨に驚く。
雨宿りのできる場所を求めて走る。

ついてないなと言いながら、浮かべたのは笑顔だっただろう。


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コメント

  1. よくわかります
    色んな感情が出てきますけど、
    このブログを読んで素敵だなぁって思いました

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    返信
    1. コメントありがとうございます。
      そう言って頂けるとすごく嬉しいです。

      削除

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